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アイツの人生酒場

アイツ、第2の故郷を見つけたんだって。

今夜のお話

アイツ、第2の故郷を見つけたんだって。

今夜のお客さん アイツの妻

この町生まれ、この町育ち。縁もゆかりもないこの町で不思議と楽しそうにしていることに惹かれ、“アイツ”こと現在の夫と結婚。お互いにそれぞれの働き方を尊重している。

1杯目

アイツ、仕事も住む場所も転々としてたんだって。

大将
あれ、久しぶり。
引っ越したんじゃなかった?
帰省?
大将、久しぶり!
最近、夫と一緒に戻ってきたの。
もうずっとこの町に住む予定。
大将
戻ってきたんだねぇ。
やっぱりこっちの
生活のほうが慣れてた?
そう。
私はこっちが地元だけど、
実は戻りたいって言ったのは夫。
今じゃ私より、
この町のこと好きそうだよ。
大将
いいじゃねぇか。
「この町は世界一だよ!」って
昔から酔うと繰り返してたよ。
泣き上戸ならぬ褒め上戸だな。
職場の人たちとも
ずっと仲良かったからなぁ。
毎週BBQやってたもん。
よく飽きないなって
思いながら見てた(笑)。
大将
ははは!
でも彼はもともと、
ここに縁もゆかりもないんだろ?
ないない!
すごく昔に、元カノ追いかけて
来たって言ってた。
大将
意外な過去だな(笑)。
しかもここに来る前は
職を転々としてたらしいの。
「やりたい仕事がわからん!」
なんて言って。
でもこっちに越してきてからは、
派遣で長く続いていたのよね。
大将
仕事の愚痴すら聞かなかったが、
昔はいろいろあったんだろう。
まぁだからこそ、
ふたりは出会えたわけだ。
結果オーライだよな。
2杯目

町を出たけど、もう一度この場所に戻りたかったんだって。

大将
なるほどなぁ。
それだけ気に入ってたのに、
なんで県外に引っ越したんだ?
私の仕事の転勤でね。
彼は迷わず「ついていくよ!」
って仕事も辞めてくれて。
大将
やさしいじゃねぇか。
一緒にいたかったんだね。
楽しかっただろ?
最初はね。
でも引っ越して転職したら、
彼はまた仕事に悩んじゃって。
短い職場だと
3カ月も続かなかったくらい。
見るからにつらそうだった。
大将
また仕事に
悩んじゃったんだな。
やりたいことを探すのは、
なかなか難しいことだよ。
だから1回、
本気で話し合ったんだよね。
本当にやりたいこと、なに?って。
大将
なんだったんだ?
「前の町に戻って、
前の職場でまた働きたい。
あの環境が、
俺には合ってたのかも」
って。
大将
彼の「やりたい」は
仕事内容じゃなかったんだな。
そこに気づけたの、
偉いと思うぜ。
だから、この町に戻ることを
提案したんだよね。
彼が以前働いていた
派遣の職場に相談したら、
「ぜひ戻ってきて」って
言ってもらえたのも大きかった。
3杯目

戻ってきたら、仕事も遊びも楽しくなったんだって。

大将
へえ。じゃあ引っ越して、
今はその派遣の会社に
戻ったってわけかい。
そう。もう別人よ(笑)。
みるみる顔色もよくなった。
再入社のための仕組みがあった
おかげでスムーズに戻れたし、

職場の人たちとも
また遊ぶようになったの。
大将
なるほどな。
仕事を選ぶ基準として、
働く場所や仲間、
環境って、大事なんだな。
私は、やりたいことや
好きなことを
仕事にしたんだけどね。
戻ってくるときも
それで転職したし。
大将
仕事選びの正解なんて
人の数だけあるんじゃないか。
彼の場合は、
環境が大事だったってこと。
夫婦でも、
その大事にするポイントが
違うことがあるんだね。
大将
そりゃそうだよ。
「環境が人をつくる」なんて
いうくらいだからな。
環境も大事なんだ。
なるほど。
私と夫、
ふたりともに合うのが、
この場所だったんだね。
大将
それを夫婦でちゃんと
話し合ったのは大正解だね。
たくさん迷ったからこそ、
幸せを一緒に見つけられたんだ。
今じゃ
「ここは第二の故郷だから」
って、しつこいくらい
言ってるよ。
大将
それは嬉しいねぇ。
ってことは、うちの店は
第二の実家みたいなもんだな。
今度連れてきな。
「おふくろの味」を
サービスするよ。
オヤジな大将がつくる、
おふくろの味ってこと?
看板メニューになりそうね(笑)。